彼女は3年で100万円使った。——やめた理由は、当たったからだ。

妙な話に聞こえると思う。僕も最初に聞いたときはそう思った。

けれど、これから書く話を最後まで読んでほしい。——「当たったからやめた」という一文の意味が、たぶん最後には腑に落ちる。


「Mさん」と呼ばせてもらう

登場するのは、僕の知人だ。

便宜上「Mさん」と呼ぶ。30代後半、独身、都内で働くオフィスワーカー。——ごく普通の、真面目な人だ。

彼女は3年間、電話占いに月3万円を使い続けていた。——多いときは5万円を超えた月もある。トータルで100万円。この数字を彼女自身が把握したのは、やめようと決めたあとだった。

最初に断っておくと、Mさんは「占い依存症」と呼ばれるような極端な状態ではなかった。仕事は普通にできていた。貯金もあった。——ただ、毎月の支出の一番大きなカテゴリが「占い」だった、という状態。

それが3年続いた。


きっかけは、恋愛だった

最初のきっかけは、よくある話だ。

付き合っていた人との関係がうまくいかなくなった。相手の気持ちがわからない。別れたほうがいいのか、待つべきなのか——自分では決められなかった。

友人に相談するのも気が引けた。同じ話を何度もするのは申し訳ないし、友人の答えはだいたい同じだから。——そのときに目に入ったのが、電話占いの広告だった。

「初回10分無料」

Mさんは電話した。

最初の占い師は、優しかった。話を丁寧に聞いてくれた。「彼はあなたのことをまだ好き」と言われた。——涙が出た。その夜、よく眠れた。

ここまでは、何も悪いことは起きていない。——僕もそう思う。


「また聞きたい」が始まる

問題が始まるのは、その翌週だ。

「彼から連絡が来ない」。また不安になる。Mさんはまた電話する。——今度は20分話す。8,000円。

翌週、また電話する。別の占い師を試す。最初の占い師とは違うことを言われる。不安になる。もう一度最初の占い師に戻る。——「彼の気持ちは変わっていない」と言われる。安心する。

これを3年続けた。

相手との関係はとっくに終わっていた。——にもかかわらず、Mさんは電話をやめられなかった。

なぜか。

ここが、この記事で一番書きたいことだ。


やめられない本当の理由——「未来を他人に握らせると、自分の現在がラクになる」

Mさんが最後に僕に話してくれたのは、こういう言葉だった。

「決めなきゃいけないのは自分なのに——決めなくていい時間を、お金で買っていた」

これが核心だ。

電話占いに電話している20分の間、Mさんは「自分で決めなくていい」。占い師が代わりに未来を言ってくれる。——当たるかどうかはわからない。でも、少なくともその20分、Mさんは「判断する」という重労働から解放される。

月3万円は、判断を外注する料金だった。

——これは電話占いだけの話ではない。タロット、手相、霊視、高額なセミナー、自己啓発の師匠探し。「自分で決めなくていい時間」を買うビジネスは、あらゆる形で存在する。

責める話ではない。僕も似たようなことをしてきた。——ルチルクォーツを買ったとき、僕は「石が判断してくれる」と半分くらい期待していた。

人間は、判断するのが本当に疲れる生き物だ。


「当たったから、やめた」

Mさんがやめた日の話をする。

ある夜、彼女はいつもの占い師に電話した。——「彼と復縁できますか」と聞いた。

占い師は、しばらく黙ったあとにこう言った。

「あなた、もう彼のことなんて、ほとんど考えていないでしょう」

Mさんは、息が止まったと言っていた。

——その通りだったからだ。

半年前から、Mさんはもう彼のことを考えていなかった。ただ「電話する理由」が彼だっただけで、本当に聞きたいことはもうなかった。占い師のほうが先にそれに気づいた。

「あなたが聞いているのは、彼のことじゃない。『自分の人生を自分で決めていいですか』って、ずっと私に聞いてる」

Mさんは、電話を切って泣いた。——その月から、電話占いは一度も使っていない。

やめた理由は、当たったからだ。


「きっかけ」の正体——外から指摘されないと気づけないこと

この話を聞いて、僕は考え込んだ。

Mさんが3年続けて、やめたきっかけ。——それは、占い師の「正確な指摘」だった。

皮肉だと思う。——でも、論理的には筋が通っている。

人は、自分の行動の理由を自分では見えない。「なぜ電話占いをやめられないのか」を、Mさんは3年間考え続けた。——答えは出なかった。出せなかった。

出したのは、外からの一言だ。

「あなたが聞いているのは、彼のことじゃない」——この一文だけ。

ここに、占いの本当の価値があると僕は思っている。——未来を当てることではない。「自分が今、本当は何を抱えているか」を、外側から言葉にしてもらうこと。

良い占い師は、そこまでやる。——Mさんの占い師は、たぶん良い占い師だった。だから、彼女は自分のビジネスの客を自ら手放した。


やめたあと、Mさんに起きたこと

Mさんは今、どうしているか。

彼女は、占い自体をやめたわけではない。——年に2回くらい、対面の占い師に行っているらしい。「節目に」という使い方。

月3万円が、年に1万円になった。

そして、空いた月3万円で彼女が何を始めたか。——note(ブログ)に自分の気持ちを書くようになった。

誰にも読まれなくてもいい、と言っていた。——「占い師に話していたことを、紙に書くだけでラクになる日があることを知った」と。

これは、臨床心理学で「エクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)」と呼ばれる手法に近い。感情を言語化して紙に書くだけで、不安が軽減することがわかっている。——Mさんはそれを、自力で見つけ直した。

占い師に3年かけて支払った100万円は、無駄だったのか。——本人は「無駄じゃなかった」と言う。「あの時期、占いがなかったら、もっと悪い何かに行っていた」と。

僕もそう思う。——依存は、悪いものに行く代わりに、マシなものに留まっている、という構造でもある。


「抜け出す」の本当の意味

この記事を書きながら、僕は「抜け出す」という言葉に違和感を覚えていた。

Mさんは、電話占いを悪者にしなかった。——「抜け出した」ではなく「卒業した」でもなく、「使い方が変わった」と言っていた。

これが正しい表現だと思う。

占いをやめるかどうか、は問題ではない。——「月にいくら使っているか自分で把握しているかどうか」「聞いている内容が半年前と同じかどうか」——ここが分岐点だ。

Mさんは、3年かけて、自分で自分の分岐点を見つけた。占い師の一言がそれを引き出した。——きっかけは外からやってきたが、決めたのは彼女自身だ。

僕がこの話を書きたかったのは、「やめる記事」を書きたかったからじゃない。——「きっかけは、案外、自分が払っているお金の先にある」と伝えたかったからだ。


もしあなたが、今Mさんと似た場所にいるなら

最後に、3つだけ書いておく。

ひとつ。——電話占いを使うこと自体は、悪いことではない。孤独な夜に、声を聞かせてくれる人がいるのは、救いだ。

ふたつ。——ただし、半年前と同じ質問を今もしているなら、立ち止まっていい。立ち止まる許可は、誰かから貰う必要はない。

みっつ。——「自分で決めなくていい時間」を買っている、という感覚があるなら、その感覚は正しい。恥じなくていい。人間はそれくらい判断に疲れている。

やめたければやめればいい。——やめなくてもいい。ただ「自分が今、何を買っているか」を言語化してみる。それだけで、たぶん何かが動く。

Mさんは動いた。——たった一言がきっかけだった。


あわせて読みたい

——Mさんの話が刺さったなら、こっちも。


本記事は代表および知人の個人的な経験に基づく考察であり、特定の占術・占い師・サービスの利用を推奨または否定するものではない。依存的な状態に困っている場合は、精神科・心療内科など専門機関への相談を検討してほしい。

— 了 —