Apple WatchとFitness+で脳内の雑音を消す——テクノロジーをマインドフルネスに使う逆転発想

スマホを置け、SNSをやめろ、通知を切れ——僕自身、SNSを2年離脱してみて、それが正しい側の処方箋であることは知っている。

でも今日書きたいのは、その逆側の話だ。

テクノロジーそのものを、脳内の雑音を消す側の道具として使い切る

具体的には、Apple Watchの「マインドフルネス」アプリと、Apple Fitness+の「メディテーション」を、僕が実際にどう使っているかを書く。商品レビューではない。宣伝でもない。OwnSoulの立場は一貫して自立であって、アップルにもアマゾンにも依存しないことが前提だ。

ただ、手首の上にすでに乗っている道具を使い切っていない人が多すぎる、と僕は思っている。不安になったときに占いアプリを開く前に、試すべきことがもう一段階ある——その話だ。

スマホは、脳内ノイズ製造機として設計されている

前提を先に書いておく。

Natasha Schüllが2012年の Addiction by Design: Machine Gambling in Las Vegas(Princeton University Press)で記録したのは、ラスベガスのスロットマシン筐体が、どれだけ精密に人間の予測誤差回路を刺激するように設計されているか、だった。

その筐体の設計思想は、現代のスマホのタイムライン・プッシュ通知・プル・リフレッシュ動作の設計思想と、ほぼ同一だ

僕たちが毎日何時間も握っているあの板は、脳内の雑音を増やすように、意図して作られている。

この「わからなさ」の連打が、ドーパミンの予測誤差回路を叩き続ける。落ち着かないのは、あなたの心が弱いからではない。落ち着かないように設計されたものを、毎日握っているからだ。

ここまでは、僕がこのメディアで何度も書いていることだ。

同じハードウェアで、逆向きのことができる

面白いのは、ここからだ。

ノイズを製造する装置は、そのままノイズを消す装置にもなる。同じCPU、同じセンサー、同じOSで、まったく逆向きのことができる。これは、スマホやスマートウォッチというハードウェアの、あまり語られない側面だ。

僕は13年間、前職で研修とトレーニングの仕事をしていた。4,000回以上、製品を人に教える側にいた。だから、Apple Watch に「ブリーズ」アプリが初めて搭載された2016年のこと——watchOS 3のタイミング——を、時代の空気も含めて覚えている。

あれは、業界内でも賛否があったはずだ。スマートウォッチに、深呼吸を促すだけの機能を載せる。生産性とは逆の方向だ。「何もしない時間」を提案する時計。それをテック企業が作ったのが、振り返ると少し面白い。

2021年、watchOS 8で「ブリーズ」は「マインドフルネス」アプリに名前が変わり、「リフレクト」という機能も追加された。短い問いかけが画面に出て、1分間それについて黙って向き合う、というだけのもの。

やっていることは、呼吸と、沈黙と、問いかけだ。1,000年前から宗教が提供してきたものを、手首の上の黒い板が提供している

これが、僕がこの記事で書きたい逆転発想の核だ。

「マインドフルネス」アプリで、1分だけ呼吸する

Apple Watchの「マインドフルネス」アプリでできることは、驚くほど少ない。

これだけだ。

画面には、花が開くような図形が出て、手首にはそっとした振動が来る。吸う、吐く、吸う、吐く。それを何回か繰り返すと、終わる。

僕がこれを使うタイミングは、だいたい決まっている。

ここで一つ、正直に書いておきたいことがある。

Apple Watchのマインドフルネス機能は、瞑想指導者が絶賛するほど高度ではない。ヴィパッサナー10日間コースに行った人は「物足りない」と言うだろうし、ティク・ナット・ハンの本を読み込んだ人は「浅い」と言うかもしれない。

でも、「深いか浅いか」ではなく、「始めるか始めないか」のほうが、遥かに大きな差だ。

僕は、深い瞑想の前に、浅いけど毎日できる儀式のほうを擁護する側にいる。手首が振動したら1分だけ呼吸する——この小さな仕組みが、占いアプリを開く指の動きを、ほんの一瞬だけ止めてくれる。

それで十分だ。

Apple Fitness+の「メディテーション」という、あまり知られていないカテゴリ

Apple Fitness+(月額1,480円/年額14,800円、またはApple Oneの上位プランに含まれる)には、運動のレッスン動画のほかに、「メディテーション」というカテゴリがある。

これは、あまり知られていない。Fitness+を契約している人でも、存在を知らないことがある。

できることは、だいたいこうだ。

僕がよく使うのは、10分の「穏やかさ」系のメディテーションを、夕方、仕事が終わった直後にテレビで流す、というやり方だ。

これをやる理由は、はっきりしている。仕事モードと、家族と過ごすモードの間に、切り替えの儀式が必要だからだ。

切り替えの儀式がないと、仕事中の脳の興奮状態が、そのまま家の空気に持ち込まれる。2歳半の娘に接するのに、打ち合わせの続きみたいな顔で接するのは、失礼だ。10分のメディテーションは、その切り替えのための儀式として、非常に使いやすい。

リビングのソファに座り、テレビでFitness+を開き、メディテーションを選び、10分間目を閉じる。娘がいるときは、娘も隣に座って、一緒に目を閉じていたりする。2歳半の娘が目を閉じて座っている姿は、正直、滑稽でかわいい。でも彼女は父親が仕事の顔から家の顔に戻っていくプロセスを、となりで見ている。

これは、テクノロジーをマインドフルネスに使うという話の、もっとも具体的な一例だ。メーカーは、こういう使われ方を想定して作ったかどうかはわからない。でも、道具は、使う側がどう使うかで決まる。

Apple Watchの「呼吸」機能には、科学的エビデンスがあるのか

正直に書く。

Apple Watchのマインドフルネス機能そのものに対する、大規模なランダム化比較試験(RCT)は、まだ十分に蓄積されているとは言いがたい

Appleは自社で Apple Heart Study や Apple Women's Health Study のような大規模コホート研究を走らせているが、「Watchのマインドフルネス機能を使うと主観的ストレスが下がる」ような介入研究で、査読論文の大型エビデンスはまだ少ない。

ただし、その背景にある技術、つまりスロー呼吸法(1分間に4〜6回の呼吸)が、副交感神経活動を高めてストレスを下げること自体は、強いエビデンスがある

たとえばZaccaroら(2018)の Frontiers in Human Neuroscience のシステマティックレビューは、遅い呼吸(<10回/分)が、心拍変動(HRV)と主観的な快適度を改善することを支持している。Russoら(2017)の Breathe のレビューも同様の結論だ。

つまり、Apple Watchのマインドフルネス機能が独自に効くわけではなく、スロー呼吸というエビデンスのある介入を、手首の振動でリマインドしてくれる、というのが正確な理解だ。

効いているのは、機械ではない。呼吸という、5,000年前から人類が使ってきた技術だ。Apple Watch は、それを忘れないようにするリマインダーを提供しているに過ぎない。

これを踏まえると、Watchを買っても買わなくても、実はやるべきことは同じだ——ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。ただ、それを思い出す仕組みが手首にある人と、ない人とでは、継続率に差が出る。それだけだ。

もしApple Watchを持っていなくても、同じことができる

OwnSoulで製品を強く推すことはしたくない。だから、ここに代替手段を書く。

Apple Watchがなくても、今日から脳内の雑音を消す仕組みは作れる

1. スマホだけでできる無料アプリ

2. アプリすらいらない、1分呼吸

これで十分だ。コストゼロ、設定不要、今この瞬間からできる

僕が実際にやってみて一番わかったのは、呼吸を思い出せるかどうかが、機材の差より大きいということだった。

Apple Watchはリマインダーとして優秀だ。でも、それはリマインダーであって、呼吸そのものではない。呼吸そのものは、あなたが自分の肺でやる。その主体は常にあなたで、Appleではない

占いアプリを開く前に、手首の上の道具を使い切る

この記事で一番伝えたい話を、最後に書く。

不安が来たとき、僕たちは無意識に何かを開く。占いアプリ、SNS、ニュース、Amazon。それぞれ違うように見えて、脳の回路としては「不安を感じた→外部に答えを探しに行く」というパターンで、同じだ。

僕はこれを何度も自分で観察してきた。ルチルクォーツに17,000円払ったのも、ある時期、占いアプリを毎朝開いていたのも、この回路だ。外部に答えを探しに行く動きそのものは、悪ではない。問題は、自分の内側で一度も呼吸していないうちに外に出ていってしまうことだ。

Apple Watchのマインドフルネスアプリは、あの回路に1分の遅延を差し込むための道具として、優秀だ。

手首が震える。画面が開く。1分呼吸する。終わる。——そのあとでまだ占いアプリを開きたければ、開けばいい。開かなくなっているかもしれないし、開いたとしても、「不安から逃げるために開く」のではなく「占いという儀式を意図的に使う」という、まったく違う行為になっているはずだ。

これが、OwnSoulで何度も書いている「スピリチュアルをやめるな、使い方をUPしろ」の、具体的な一場面だ。占いを使うな、ではない。自分の呼吸を一度済ませてから使え、という話だ。そしてその呼吸のリマインダーとして、手首の上のテクノロジーを逆向きに使う——これが、今日書きたかった逆転発想の全体像だ。

もし今日、一つだけ試すなら

最後に、今日試せる一番小さなことを書いておく。

Apple Watchを持っている人は、「マインドフルネス」アプリを開いて、1分の呼吸を、今日だけやってみてほしい。朝起きてからでも、寝る前でも、トイレに立ったついででもいい。

Watchを持っていない人は、スマホのタイマーを1分にセットして、吸う4秒・吐く6秒をゆっくり6回やってみてほしい。

これで、今日の脳内の雑音は、ほんの少しだけ減る。

少ししか減らない。でも、脳内の雑音は、総量を減らす戦いではなくて、その場で一時停止できるかどうかの戦いだ。一時停止できる人は、どんなに外側が騒がしくても、静けさに戻る場所を持っている。

テクノロジーは、その「戻る場所」のリマインダーになれる。ノイズを増やす側にも、消す側にも、同じハードウェアが使える——その事実を、使う側がどう選ぶか、というだけの話だ。

手首の上の道具を、ノイズを消す側で使い切ろう。

それが、僕がApple Watchを褒めない理由であり、同時に、それでも毎日使い続けている理由だ。


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