朝礼に瞑想が来た日——ヨガインストラクターの同僚が教えてくれた「雑音を消す」5分間

前職の朝礼で、ある日から突然、瞑想が始まった。

正確に言うと、突然ではない。発起人は、同じフロアで働いていた同僚のひとりだ。本業とは別にヨガインストラクターの資格を持っていて、ある朝、上司に「朝礼の最初の5分、やらせてもらっていいですか」と提案した。上司は、困ったような顔で少し笑って、「じゃあ、やってみようか」と言った。——そこから数ヶ月、僕の朝は、同僚の低い声で始まるようになった。

この記事は、その5分間の話だ。

そして、あの5分が、今の僕がOwnSoulで書き続けている「脳内の雑音を消す」という言葉の原点になっている、という話だ。

朝礼の風景——最初の一日

最初の朝を、今でも覚えている。

会社の朝礼は、本当に平凡なものだった。部署ごとに円をつくって立ち、上司が一日の予定と連絡事項を読み上げる。あくびを噛み殺している人、スマホを握ったままの人、前夜の残業で目が赤い人。僕自身も、正直、朝礼の時間は「早く終わらないかな」と思いながら聞き流していた。

その朝、同僚が前に出て、こう言った。

「今日から、朝礼の最初に5分だけ、簡単な瞑想をしてみようと思います。難しいことは何もしません。椅子はそのまま、座ったままでいいです。目を閉じて、呼吸を数えるだけ、です」

同僚の声は、朝礼用の張った声ではなかった。一段低くて、ゆっくりで、こっちの肩の力が先に抜けるような声だった。これだけで、その場の空気が、少しだけ変わったのを覚えている。

「吸って、吐いて、を1回と数えます。10回数えたら、また1に戻ります。途中で数を忘れたら、怒らずに、また1から始めてください。——では、目を閉じて」

オフィスの蛍光灯の白さと、空調の音と、隣の部署の笑い声が、急に遠くなった。

最初の1分で、僕の脳は盛大に雑音を出した

目を閉じた瞬間、僕の脳はむしろうるさくなった

呼吸を数えるどころじゃない。「1、2、3……あ、やばい、あの件……ええと、どこまで数えたっけ」の繰り返しだ。後で同僚に「全然集中できませんでした」と言ったら、笑いながら「最初はみんなそうですよ。むしろ、ざわついてるな、って自分で気づけただけで十分です」と言ってくれた。

この「ざわついてるな、と自分で気づけた」という部分が、あとから効いてくる。

——この記事の本丸は、たぶんここだ。

2週間目、何かが確実に変わっていた

毎朝、5分。

最初の数日は、ただ座っているだけの時間に感じた。途中で鼻がかゆくなるし、同僚の呼吸音が気になるし、隣の人の靴の音も気になった。でも、3日目あたりから、不思議なことが起き始めた

朝礼の瞑想が終わったあと、自分の席に戻ってパソコンを開いた瞬間、いつもなら真っ先に浮かんでくるはずの、あの「ざわざわ」が薄いのだ。

——こういう、背景で常に鳴り続けていた低周波のノイズが、少しだけ音量を下げている感じがした。

もうひとつあった。自分の感情を、一段外側から眺められる瞬間が、日中に増えた。

上司がちょっと理不尽なことを言ってきたとき、いつもなら瞬間的にカチンと来て、内心で延々と反論を組み立てていた。——その日は、カチンと来た瞬間に、「あ、いま僕、カチンと来たな」と、もうひとりの自分が横から言ってきた感覚があった。

カチンと来たことは、消えない。でも、カチンと来ている自分を、一段上から見られるようになると、それに操縦されなくなる

これが、「癒し」と「自分を見つめ直す」という、二つの効果の正体だったと、今の僕は思っている。

瞑想の科学——ただの気分転換ではなかった

ここで、一度だけ、科学の話に寄り道させてほしい。

僕があの5分間で感じた「脳内の雑音が減った」「自分を外から眺められる」という主観的な変化は、単なる気分の問題ではなく、脳の構造と活動の変化として観測されている

扁桃体——不安と恐怖のアラーム

ひとつ目は、扁桃体(amygdala)という、脳の深部にある小さな器官の話だ。

扁桃体は、不安・恐怖・怒りの一次アラームを鳴らす場所だ。上司の理不尽な一言にカチンと来るとき、先に火がつくのはここだ。

ハーバードのSara Lazarらのグループが行った一連のMRI研究(Hölzel et al., 2011, Psychiatry Research: Neuroimaging, 191(1), 36-43 / Hölzel et al., 2010, Social Cognitive and Affective Neuroscience, 5(1), 11-17 ほか)では、8週間のマインドフルネス瞑想プログラムを受けた参加者で、扁桃体の灰白質密度が減少し、ストレス刺激に対する反応性も下がったことが報告されている。

扁桃体のアラーム音量そのものが下がる」ということだ。カチンと来ることが消えるのではなく、カチンと来る閾値が、静かに上がる。

僕があの朝礼の翌週から感じた「ざわざわが薄い」の正体は、たぶんこれに近い。

デフォルト・モード・ネットワーク——脳内の「独り言」回路

ふたつ目が、もっと重要だ。

デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network, DMN)という、脳内ネットワークがある。

DMNは、人が何もしていないとき、ぼーっとしているとき、自動的に活性化する。この時に脳が何をしているかというと、——過去の反芻、未来の心配、他人との比較、自分へのダメ出し。要するに、脳内のひとり言だ。

Harvardの心理学者たちの有名な研究(Killingsworth & Gilbert, 2010, Science, 330, 932)では、人は起きている時間のおよそ47%を「目の前の行動とは別のこと」を考えて過ごしている、そしてそのマインドワンダリング中は、主観的な幸福度が下がる、というデータが示された。

そして、イェール大学のJudson Brewerらの研究(Brewer et al., 2011, PNAS, 108(50), 20254-20259)では、熟練した瞑想者のDMNの主要ノード(内側前頭前野 mPFC・後部帯状皮質 PCC)が、瞑想中および非瞑想時ともに、非瞑想者より静かだったことが fMRI で確認された。

噛み砕くと、こうなる。

瞑想を続けると、脳内のひとり言回路そのものが、音量を下げる。

僕があの朝礼の5分間のあと、デスクに戻って感じた「背景の低周波ノイズが薄い」感覚は、おそらくDMNが一時的に鎮まっていたからだ。ざっくり言えば、脳のラジオのボリュームを、一段下げたようなものだ。

占いやパワーストーンの前に、まず脳内の雑音を消す

さて、ここからが、OwnSoulとして書きたい話の本丸だ。

僕たちは、不安なとき、ざわついているとき、とにかく何かに手を伸ばしたくなる

僕自身、ルチルクォーツに救われた時期がある(この話は別の記事に書いた)。だから、これらを「やるな」と言うつもりは、まったくない。それぞれに固有の効き方があるし、僕は占いやスピリチュアルをやめろと言うつもりは、一切ない

ただ、ひとつだけ、順番の問題として書いておきたいことがある。

「何かを引く前に、まず脳内の雑音を一旦消す」

これは、僕があの朝礼で学んだ、一番大きな教訓だ。

ざわついたまま占いを引くと、ざわついている側の自分が、カードの意味を受け取る。「気をつけて」と出ていたら、「何に?」「誰に?」「もしかしてあの件?」と、DMNがフル回転で不安を拡張していく。扁桃体も並走する。——結果、占いが、不安を鎮めるどころか、不安の燃料になる。

同じカードを、脳内の雑音を一度消したあとの自分が引いたら、どうなるか。「ああ、気をつけろということか。じゃあ、今日の会議では発言の前に一呼吸置こう」で、終わる。カードは、ツールとして正しく機能する。

スピリチュアルを「使いこなす」とは、たぶんこういうことだ。依存の側から使うと、燃料になる。静けさの側から使うと、地図になる。

この「静けさの側に立つ」ための最初の一歩として、5分の呼吸瞑想は、ほぼ無料で、アプリも道具もいらず、誰にでもできる。これを使わない手は、正直、ない。

明日の朝から始められる、5分の呼吸瞑想

同僚が教えてくれたものに、僕なりに余分を削って整理したやり方を書いておく。アプリは要らない。タイマーだけあればいい。

座る場所は、椅子でもベッドでもいい。床であぐらをかく必要はない。姿勢は「背筋だけ、すっと引き上げる」。これだけ意識する。肩の力は抜く。

目は、軽く閉じるか、半目で1.5メートルくらい先の床をぼんやり見る。どちらでもいい。眠くなる人は、半目のほうが続く。

タイマーを5分にセットする。スマホで構わないが、機内モードにしておくこと。これは守ってほしい。途中で通知が鳴ると、脳がそちらに全部持っていかれる。

呼吸は、鼻から吸って、鼻から吐く。スピードは、普段より少しだけ遅く。吸うのに4秒、吐くのに6秒くらいが目安だが、数秒の精度にこだわる必要はない。

「吸って、吐いて」で1回と数える。10まで数えたら、また1に戻る。途中で数を忘れていることに気づいたら、怒らずに、ただ1に戻る。これが、この練習の一番重要な部分だ。

——同僚が繰り返し言っていたのは、ここだった。

「雑念が浮かぶのは、悪いことではありません。むしろ、雑念が浮かんだことに気づいて、呼吸に戻る——その一往復が、筋トレの1レップです。雑念が浮かばないことが偉いんじゃなくて、気づいて戻れたことが偉いんです」

僕は、この言葉でずいぶん救われた。瞑想を「無になる修行」だと思っていた僕にとって、「気づいて戻る一往復がトレーニング」という定義は、完全にハードルを下げてくれた。

5分間で、雑念に気づいて呼吸に戻る、という一往復が、10回できれば、それはもう十分に中身のあるトレーニングだ。——脳内の雑音を一度ゼロに戻す時間を、朝の5分だけ、自分のために確保する。これだけのことだ。

朝礼の5分が、今の僕の基礎を作った

あの会社は、もうとっくに辞めた。同僚とも、今は年賀状のやり取りくらいしか残っていない。それでも、あの朝礼の5分間が、僕の中で今も生きている

僕は今でも、不安でざわついた朝は、座る。占いアプリを開く前に、ブレスを手首に巻き直す前に、まず座って、呼吸を10数える。それだけで、同じ一日なのに、手に取るものが変わる。

占いは、今も好きだ。ルチルも、今も持っている。でも、それらに手を伸ばす自分が、どの側から手を伸ばしているか——ざわざわの側からか、静けさの側からか——を、先に確認する癖がついた。

このセルフチェックができるようになったことが、僕にとってのスピリチュアルの「使い方をUPする」の、最初の具体的なスキルだった。そしてそのスキルは、お金を払って誰かに授けてもらったものではなく、会社の朝礼の5分間と、親切な同僚の提案から、ただで始まった。

だから、この記事を読んでくれているあなたにも、明日の朝、5分だけ、同じことを試してもらえたら嬉しい。

アプリは要らない。アクセサリーも要らない。タイマーと、椅子と、鼻から抜ける呼吸と、数を数えるだけの心があればいい。

——脳内の雑音を、一度だけ、消してみる。

そのあとに手を伸ばすものは、たぶん、少しだけ違って見えるはずだ。


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